安藤    操 (民俗研究家)


長南町の遊休田に仲間たちと米作りに取り組んで、3年間が過ぎた。そのいきさつは本紙に不定期連載をしているので、ご存知の方も多いと思うが、その骨子を振り返っておくとこうである。

 それは「有機無農薬の酒米を栽培して、腕のよい杜氏さんに地酒を作ってもらおう」という単純な発想からであった。ところが、これには10年以上放置してあり、しかも周辺に農家の田畑のない遊休田が必要であった。農薬や肥料で汚染されていない土地というのは、耕作に不便で手がつけられないほどに荒れ果てている所にしか存在しない。小野田のシイジ(湿め地)谷津は、そういう所であった。周囲の林から湧き出る清水も1年中涸れることがない。

 地元の農家グループの協力を得て、悪戦苦闘して水田を再生させ、休息小屋を建てた。約3反歩を耕作しているが、機械の力をかなり借りている。人力には限界がある。
 今年は、昔ながらの苗代作りから始めた食米が150キロ、機械中心の酒米栽培は1050キロを収穫した。

気候不順、日照不足の年にしては豊作である。

 酒米は、「総の舞」という千葉県農業試験場が開発した房総の土地に合う酒造好適米。それを40パーセント削って吟醸酒にしてもらう。南部杜氏の長老菊池幸雄(現代の名工)さんが腕を振るう御宿町の岩瀬酒造(岩の井)に例年お願いしている。

 この蔵は「山廃仕込」と「古酒」で全国的に名声を得ているが、「山廃」という言葉はかなりの通でないと意味がわからない。古い酒造りに「山おろし」がある。酒米を蒸してすりつぶし、蔵に染み付いた酵母菌で醗酵させる方法である。この「山おろし」の方法を廃止して、時間を掛けて熟成させる方法を「山廃」というのである。これはかなりの技量と根気の要る作業だが、人気も高い。コクのある酒が出来るのである。

 また「純米酒」にしていただいたが、この言葉も説明しておきたい。戦後、米不足の中で酒造りは行われていたから原酒に水と糖分とアルコールを加え、量を増やした。その名残がアルコールの添加であるが、最近では無添加の「純米酒」を好む人も増えて来ている。
 「生酒」にも、2種ある。1度も火入れ殺菌をしない物と、1度する物(生貯蔵酒)とである。日本酒は酵母が生きているから腐敗と変質は宿命である。昔は健康に悪い防腐剤を入れたが、現在は火入れをタンクで1度、ビン詰めで1度と2度行うのが普通である。

 私たちの酒は、1度だけ火入れをお願いしてある。それはいくら保存管理をよくしても時間がたてば味がかわってしまうからせめて少しでも絞りたての味の寿命を長引かせたいという願いからである。

 さらに今年は、友人の竹久みなみさんにお願いして、祖父夢二の代表作「舞」の絵をラベルに使わせていただいた。みなみさんも会員限定で、営利を目的としないので了承された。ただ、会員に配布した残りが少々あるので、保存管理のよいシマヤ酒店(千葉市若葉区みつわ台・TEL043-252-3251)で販売していただくことにした。このラベルを眺めながら味わう酒は、まさに風味絶佳、舞い上がる酔い心地である。

 ところで、人里はなれた谷津田のほとりで、都会の喧騒を離れて仲間たちと飲み語り、しばし時間を忘れて過ごす体験は貴重である。春先には芹を摘み、田植えの後では、餅つきをし、牡丹餅を食べ、稲刈りの後では山芋を掘り、とろろ汁ご飯で満腹になる。
まさに大自然に抱きかかえられたスローライフ・スローフードとは、これをいうのではあるまいか。

 これ以上の贅沢はどこにもない。


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